水耕ソーラーシェアリング・プロジェクト

概要

本プロジェクトは、南房総市の地方創生支援活動を通じて、農業就労人減少と高齢化及び耕作放棄地増加と、太陽光発電適地不足という2つの問題解決に貢献するためのプロジェクトです。前者は、低コスト、高付加価値、低労働負荷で多毛作可能な、水田型「EZ水耕」○Rによる実証を行います。後者は、EZ水耕農地に於ける営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の実証を行います。


本研究開発プロジェクトの背景と狙い

我が国では、2011年3月の東北大震災後、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の活用が喫緊の課題となり、2012年7月に、「再エネ特別措置法」が施行されました。本法の固定価格買取制度で優遇された「メガソーラー」は、爆発的に普及しましたが、同時に、系統連系に関わる電力会社の買取拒否や用地不足などの問題を生じました。その一方、農業では、農業就労人口の急減と高齢化、および耕作放棄地の増加が深刻な問題となっています。

これらの問題の解決策のひとつとして、2014年5月に「農山漁村再エネ法」が施行され、農地への太陽光発電設備の設置(架台の支柱置箇所のみ農地転用)が可能となりました。この営農継続型太陽光発電システムは「ソーラーシェアリング」(以下,SS)と呼ばれ、全国的に普及し始めています。

SSは、作物の生育度が光飽和点をもつことを利用し、太陽光を作物と太陽光パネルが分け合う複合システムです。その基本構造は、高さ約3mの位置に狭幅の太陽光パネルを一定間隔で設置するというシンプルな構造。土地全体に占める太陽光パネルの設置面積の割合は3割程度ですが、電力収入の方が耕作収入を上回ることも多いです。

SSは3年後に、農作物の収量がパネル設置前の2割減少以内に収めるよう義務づけられています。これを超えるとパネルの全面撤去が必要となり、大きな痛手を被ります。また、強風への耐性や、パネル前端部の雨だれによる作物損傷等にも不安が残ります。しかも、SSで農作業の負荷は軽減せず、農業労働人口減少対策としては頼りありません。

一方、学術面においても、SSは未だに系統的な研究が行われておらず、生産性向上のための支配要因や、様々な要因の寄与割合は明らかにされていません。特にSSの本質的課題である「作物と発電間の光量の取り合い」問題については、未解明のままになっています。

そこで、上記従来型SSの本質的課題を、共同研究ベンチャー企業2社((有)エムエスイー、(株)セプトアグリ)との共同検討により、農業就労人口の減少や高齢化、耕作放棄地増加等の問題を抱える南房総市の地方創生支援活動を通じて、解決することを目指しています。

なお、本実証プロジェクトの根幹をなす水耕SS基本特許は、久保研究室が上記2社と共同出願済みです。また、EZ水耕特許は、(株)セプトアグリが出願済みです。


これまでの成果や今後の展望

図1.太陽光自動追尾機構を装備した樋式水耕ソーラーシェアリング実験設備(三者共同製作)

図1.太陽光自動追尾機構を装備した樋式水耕ソーラーシェアリング実験設備(三者共同製作)

図2.低コストLED育苗とEZ水耕用スリットポット定植((株)セプトアグリ)

図2.低コストLED育苗とEZ水耕用スリットポット定植((株)セプトアグリ)


図3.水耕ソーラーシェアリングシステムの鳥瞰図((有)エムエスイー実験農場)

図3.水耕ソーラーシェアリングシステムの鳥瞰図((有)エムエスイー実験農場)

図4.水田を利用したEZ水耕実証試験の様子((株)セプトアグリ)

図4.水田を利用したEZ水耕実証試験の様子((株)セプトアグリ)


本プロジェクト・コンセプトの妥当性を確認するため、樋式EZ水耕と自動追尾式太陽光発電設備を組み合わせた水耕ソーラーシェアリング実験設備を、三者共同で製作しました(図1)。EZ水耕は、独自のLED育苗設備で育成した高品質苗を、掛け流し型水耕設備に定植し(図2)、高品質・低コストの多毛作水耕と、高採算性の太陽光発電を両立可能であることを確認しました(図3)。独自の簡易型一軸太陽光自動追尾機構によって年間発電量を11.4%増加でき、採算性向上を図れた。

その一方、水田を用いたEZ水耕の実証実験により、低コスト・低労働負荷での高付加価値野菜の多毛作も可能であることを実証した(図4)。現在、南房総市の中学校遊休プール設備での実証実験を実施中である。また、EZ水田水耕に必要な長期間の水利を確保できる南房総市の適地一次調査を完了しました。

上記と平行して、野立て太陽光発電設備下での高付加価値農作物の育成(低架型水耕ソーラーシェアリング)技術を確立するため、千葉工大津田沼キャンパスの校舎屋上に実験設備を製作し、実証実験中です。今後は、上記開発技術を基に、南房総市の農業従事者と連携して、その実用化を目指します。


基本情報

カテゴリー

人材育成、産業振興、若者定着

プロジェクトを展開している自治体名

南房総市

関わっている研究室名、教員名、企業、団体など

千葉工業大学 プロジェクトマネジメント学科 久保研究室 教授 久保裕史

実施期間

平成28年6月~

プロジェクトに関連するホームページアドレス

http://www.kubo-labo.com/

プロジェクトに関する連絡先情報

千葉工業大学 プロジェクトマネジメント学科 久保裕史
〒275-0016 習志野市津田沼2丁目17番1号 1号館9階
TEL:047-478-0345
e-mail:hiroshi.kubo@kubo-labo.com